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2014年6月

2014年6月23日 (月)

「自ら学ぶ意欲の心理学」  櫻井茂男著  その10

  
前回まで、自ら学ぶ意欲に与える教育の影響について、中学生までの先生のお考えを紹介致しましたが、高校生・大学生につきましては対象となる生徒が少ないため、省略させていただきます。それで、今回からは、自ら学ぶ意欲と学業成績、精神的健康や自ら働く意欲との関係について、先生の意見を紹介致します。
さまざまな研究により、自ら学ぶ意欲が高いと学業成績もよいことが報告されていますが、これはほぼ予想された内容です。ただ、注目すべきは、学習の質との関連です。
グロルニックとライアンという二人の研究者の実験結果を報告します。
小学生を二群に分け、一つの群れには教科書に掲載されている短い文章を読むように教示します。もう一つの群れにも同じ文章を読むように教示しますが、さらに後でテストをして成績の一部にすることをつけ加えます。
後者の群は外発的な学習意欲を喚起した群であり、それに比べると前者の群は内発的(自ら学ぶ)意欲が高い群といえる訳です。
実験終了後、両群の成績を比べますと、機械的な暗記問題では外発的な学習群の方が優れていましたが、学習内容の概念的理解を問う問題では、内発的に(自ら)学ぶ群の方が優れていました。
この結果は一見しますと、学習内容の概念的理解という面では、内発的な(自ら学ぶ)意欲の高い方が有利で、機械的暗記という面では、外発的な学習意欲の高い方が有利なように見えます。しかし、一週間後に行われた成績の再チェックでは、機械的な暗記問題における外発的な学習群の優位性は失われていたのです。この結果は長い目で見ますと内発的な(自ら学ぶ)意欲の高い群の方が、質の高い学業成績を修めることが期待できることを示唆しています。しかし、それにしましても、テストの効用について、私はいろいろ考えさせられました。以前も見ましたように、後でテストを行うと言っただけで意欲をなくしてしまう子どももいますし、そのうえ、学びも浅くなるというのでは、よく考えて実施しなく
てはいけません。受験学年では、相対的な自分の位置を知るために必要なのですが、そうでない学年では、むやみにテストを行うことは極力控えた方がよさそうです。特に、順位を競うようなテストは、外発的な力がいっそう強く働きますので要注意です。理解度、定着具合を確認するための必要最小限のテストで、その結果も、決して他者と比べたりするのではなく、過去の自分と比較する、いわゆる自分の成長具合が把握できる内容にすべきでしょう。そのような場合のみ、テストのマイナス面は最小に抑えることができると思います。
次回は、自ら学ぶ意欲と精神的健康の関係について、先生の意見をご紹介いたします。   

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2014年6月13日 (金)

「自ら学ぶ意欲の心理学」10   櫻井茂男著  

 

 今まで、9回にわたり、櫻井先生の「自ら学ぶ意欲の心理学」について解説して参りましたが、ひとまず、今回で終了させていただきます。ただ、この本の内容からしますと、大切と思われるパートのみを取り出した感があり、決してこれで全体を見通せた訳ではありません。これからも現場で日々生じてくる現実に対処していく上で、必要に応じてこの本を参照し皆様と共に考えていきたいと思います。

 

◎自ら学ぶ意欲と精神的健康との関係

 

 本書では、精神的健康とは、生活満足度や自尊感情が高く、不安や抑うつが低い状態と定義されています。

 

 自ら学ぶ意欲が高ければ、精神的にも健康であることは容易に想像できることではありますが、さまざまな調査結果もそのことを実証しています。一つの例を挙げますと、118名の大学生には自己価値尺度(自分を価値ある人間と思うかどうかを測定する尺度)を、別の130名の大学

 

生には充実感尺度(自分の人生が充実していると思うかどうかを測定する尺度)を実施し、自ら学ぶ意欲測定尺度との関係を検討しました。そ

 

の結果、いずれも有意な正の相関が認められました。つまり、自ら学ぶ意欲が強い大学生ほど、自分を価値ある人間と思い、自分の人生が充実していると思っているということです。

 

 自分の学生時代を振り返りますと、ただ北国への憧れだけで、気に染まない学部を選んでしまい、すっかり学習意欲を失ってしまいました。毎日、下宿にとじこもって本ばかり読んでいましたが、不安感は強く、決して健康的な精神状態ではありませんでした。でも、そうでもしなければ、北国で暮らすことはとうていできなかった訳で、今ではまったく後悔していませんが・・・。

 

さらに、中学生、小学生を対象にした調査におきましても、同様の結果が出ています。

 

 すなわち、自ら学ぶ意欲が高いと、学習場面での不安が生じにくく、平常心で授業が受けられるということです。

 

 「平常心で授業が受けられる」、このことは皆様はそんなに大切なことかと疑問に思われるかもしれませんが、極めて重要なことです。教壇から見ていますと、一目瞭然ですが、心に不安を抱えている子どもはどうしても落ち着くことができません。目がそわそわして泳ぎ、心ここにあらずの状態です。安心を得るため、つい同じような仲間に話しかけます。そうして、先生に怒られる羽目になります。

 

 このことを解決するためには、学びの場である教室が、即彼らの居場所になることが必要です。安心して学べる場にならなければいけません。「今のままでいいんだよ。少しずつわかるようになっていこうね。」

 

 まず、教える私たちがこういう気持ちになることが必要なんですが、あまりにも忙しすぎますと、つい忘れてしまいます。だから、私たちにもゆとりが必要です。効率ばかり追求しますと、どうしても、焦りが出てきます。焦りの中からは一つも良いことは生まれません。それで、これからは、チームティーチングの人数も増やし、ゆったりとした時間の流れの中で、学びの場が互いに「楽しいひととき」と感じられるように改善していきます。

 

 そういう中でこそ、失った自信を回復することができ、学習意欲も徐々に培われ、よって安心して平常心で授業が受けられるようになる。いわば良循環の連鎖に近づくことが可能になると思います。

 

 次に「自ら学ぶ意欲」と「創造性」の関係を見ていきます。

 

 思考は一般に、与えられた問題に対して一つの解答を見つけるような「収束的思考」(集中的思考)と与えられた情報の中から新しい知識や問題を発見するような「拡散的思考}に分けられます。このうち、拡散的思考によって、独創的でかつ有用な結果を生み出す能力のことを、「創造性」といいます。創造性は新しい科学技術の誕生や独創的な芸術作品の産出には欠かせません。こうした想像性を測定するテストも開発されています。

 

図1

 

Photo

図2

Photo_2

 

 

                             

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上図「代替利用問題」は非凡性を表し、「アナグラム問題」は柔軟性を、「遠隔連想問題」は遠隔連想性を表しています。 

 さらに図2のように、学力と集中的思考、拡散的思考は異なった側面からではあるものの、プラスの影響が見られます。

 

 ただし、知能と創造性とは思考の方向が異なるため、独立の関係にあると考えられています。私個人の直観では、あまりにも集中的思考型の問題(受験勉強のような)ばかりやりすぎますと、拡散的思考、つまり創造性は失われるのではないか、少なくとも拡散的思考の翼の自由な羽ばたきを阻害するのではないかと危惧しています。つまり、ガリ勉から詩人は生まれないと・・・。

 

 次に外的報酬や外的評価と創造性との関係についての調査を報告します。

 

 アマビルという学者は、大学生を対象に、芸術作品を課題として、次のような調査を行いました。

 

 他者からの評価のあり方を基準に、技術的な評価を受ける群、創造的な評価を受ける群、評価がない群の三群を設けて検討した結果、もっとも創造性が高かったのは、評価がない群でした。

 

 このことから、大学生は外的評価によって、外発的に動機づけられると、創造性が低くなることが明らかにされました。

 

 このことは、外的報酬や外的評価が内発的動機づけを低下させる、いわゆるアンダーマイニング現象が影響していると思われますが、内発的動機づけが創造性を高めるという確証は得られていません。

 

 先生は、結論として、「自ら学ぶ意欲は創造性を高めるのか、という問いに対する答えとしては『その可能性は高い』というのが妥当な結論であろう」と述べられています。                          (廣瀬)

 

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